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10/7 おとぎ話を現実に

2019年10月07日

10月6日。国際子ども図書館のアーチ棟研修室にて午後から「現代ロシアの芸術と絵本-国際アンデルセン賞作家イーゴリ・オレイニコフ」を聞く。

まずは沼野充義氏による講演「現実をおとぎ話にする-想像力の解放区としてのロシア児童文学」。ロシアの豊かな児童文学の系譜を民話、寓話、作家の創作児童文学、ジャンルとして確立した児童文学に分けて歴史的な変遷を踏まえてのお話があった。ここを踏まえていないとオレイニコフの独創性を理解できないとの意図によるお話だったのだが、大変濃い内容をわかりやすくまとめて伝えてくださり、まさに重厚なスカースカ(お話)を聞くように拝聴させていただいた。

そして続いて「おとぎ話を現実にする」というテーマでオレイニコフ氏のお話が始まる。工業大学を出て、絵の専門の教育は受けていないこと、アニメーションを30年続けていたが、スタジオの閉鎖に伴い絵の仕事に専念することになり、挿絵画家としてのキャリアはまだ11年であるという話を皮切りに、2014年に「アーサー王物語」の挿絵創作の仕事の取り組みを機に、それまで一般的であったお話の世界を華美に表現することに疑問を抱き、「現実」を描こうとする挑戦を始めることにした経緯が話された。

挑戦、戦いという言葉を使いながら、次の作品である旧約聖書の挿絵を紹介しながら、新しい解釈で挿絵を創作していくことへの情熱を語り、カノンを壊す。見方を変える。がとにかく創作のテーマであることを熱く語った。

おとぎ話を現実にする…このことについてオレイニコフは、生身の人間という言葉を使い、リアリズムを追求する、つまりは(すでに編集者による判断を通ったものであるし)残酷なものも残酷なままに表現することであると語った。また、子どものために描いているわけではなく、親のために描いているとも。表現によってはやはり波風も立つことでもあるので、生きた作家の作品は描かないようにしている、と言い会場を沸かせた。

限られた時間であったが、逆に現在のオレイニコフ氏の創作への思い、覚悟がクリアーにストレートに伝わる内容の講演であった。その思いを受け、彼はアーティスト、しかもロシアの、との思いをさらに強く持った。既成概念の打破はアーティストにとってある意味当然ともいえる姿勢であり生き方でもあると思うが、さらにロシアの、となるとそこにどうしても歴史的背景も重ねて受け取らざるをえない。

ある時代、ロシアではそれまでの概念を打ち崩したアートの革命が起こった。ロシア・アヴァンギャルドである。オレイニコフ氏の挑戦、戦い、という言葉の斡旋と情熱に何かそういうことを思い起こさせる匂いを感じてしまったのは、私のまあ思い込みとしても。

ただ、沼野氏の丁寧な児童文学の振り返りはやはり、オレイニコフ氏を理解するには必要だったと思わざるを得ない。そう、オレイニコフ氏のおとぎ話を現実にする、という挑戦こそ、きっとロシアのある時代のアーティストたちからするとまさにおとぎ話であるに違いないだろう。

個人的にはこの挑戦を作品として今後見ていくことできるのは幸せなことだと思っているし、また生身の人間!のロシアのアーティストの話を聞くことができたのも嬉しいことだった。

さあ、オレイニコフは今後どんな挑戦を私たちに見せてくれるのだろうか。ある意味自分がそれを見てどう思うかも楽しみにしていきたいとも思っている。

「芸術家の役割は問うことで、答えることではない」(アントン・チェーホフ) (直)

画像はカランダーシの絵本展示を見てくださる方のために作ったパンフ。裏にはプロフィールなど書いてある、


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